自身の夢である自作アプリ100万DLをネタとした短編小説となります。どうすれば100万DLを達成できるのか?AIに相談しながら考えていました、最後に物語にして欲しいと依頼するとこんな感じに・・・・現実とはかけ離れた夢エピソードとなり面白く感じましたので、興味があれば以下の本編をどうぞ。
月の都市と百万の夢
ある日の会社の帰り道、周三は遠回りの遊歩道を歩いていた。夜風が心地よく、いつもは下を向いて早足で帰るところ、ふと夜空を見上げる気になった。
月が、異様に大きく、そして澄んでいた。まるで空に張りつけられた巨大な円盤のようで、その表面には奇妙な模様が浮かんでいた。
それは回路図にも似た、あるいは精密な迷路のような複雑な線。光の加減ではなかった。明らかに、何か「描かれて」いる。
「……あんな模様、あったか?」
気になってその場に立ち尽くし、周りの通行人にも聞いてみたが、誰一人として「そんな模様は見えない」と言う。写真に撮っても、スマホの画面にはいつも通りの月しか映らない。
疲れてるのかもしれない。だが、それから毎晩、その模様ははっきりと見え続けた。見えるのは、どうやら自分だけ。理由もわからないまま、一週間が過ぎた。
その週末、散歩のついでに古本屋に立ち寄った。懐かしい紙の匂い。ふと、一冊の絵本が目に止まる。
『月の扉』とタイトルがあり、表紙には、あの模様がくっきりと描かれていた。心臓が跳ねた。これは、偶然ではない。
周三は手を伸ばし、模様の部分に指を添えた。
瞬間、絵本が白く輝き、視界が弾けた。身体が空に吸い込まれるような感覚に襲われ、気づいたときには——
重力が軽く、空が青くかすんだ都市に立っていた。
「ここは……?」
地面はガラスのように滑らかで、建物は結晶のように光を放つ。天井のように空を覆うのは、月のクレーターの内壁だった。間違いない。ここは月。だが、誰もが思い描く無人の荒野ではない。
通りには、さまざまな種族が行き交っていた。人間のような姿もいれば、透明な皮膚を持つもの、空中を漂う球体のような存在もいた。彼らは都市の中で普通に暮らし、商店が並び、会話を交わしていた。
「あなたですね、周三さん。ようこそ、ルーナ=サンクタムへ」
振り向くと、透き通った蒼い瞳の女性が立っていた。エラと名乗る彼女は、この都市の情報共有センターで働く管理官だった。
「ここは次元をまたいだ“共存都市”です。月の裏側に存在する、もう一つの月です」
エラは言った。今、この都市は危機に瀕していると。数十年かけて築かれた種族間の平和は、共通の翻訳システムに支えられていた。しかし数ヶ月前、中央翻訳AI「ルミナス」が突如として機能不全を起こし、各種族の言語がうまく変換できなくなった。
「今では会話すらできず、誤解と対立が広がっています。すでに三つの種族間で衝突が起き、死者も出ました」
エラは、ひとすじの涙をこぼした。
「周三さん。あなたが開発した“直感翻訳アプリ”が、唯一の希望なんです」
冗談のような話だった。だが周三は思い出した。かつて夢中で作っていたアプリがあった。機械学習を使って、言語の文脈と感情を自動解析し、直感的に伝えるチャットツール。それを使えば、言葉の壁を越えられる——と信じていたが、現実では全く受け入れられず、アプリストアでは200DL止まり。失意のまま更新を止めていた。
だが、エラたちはそのアプリを独自に解析し、地球から引き寄せたのだという。
「私たちには、この“感性型翻訳”が必要なのです。言葉そのものより、“伝えたい気持ち”を共有できるものが」
それから周三は、月の技術者チームとともに、再開発を始めた。
重力が地球の6分の1という環境の中、慣れないコードベースを翻訳し、各種族の言語構造をディープラーニングにかける。
“心で伝える翻訳”。それは、人間ですらうまく扱えない技術だったが、月の量子演算処理装置を使えば可能性はあった。
彼のエンジニア魂に火がついた。
一週間後——
翻訳アプリ「LU-ME(ルーミィ)」のベータ版が完成した。
人間、気体生命体のサルバ族、光波で会話するノオス族の代表を集めてテストが行われた。三者がそれぞれ自分の言語で話すと、画面上に浮かぶアイコンが“気持ち”を先に伝え、その後に意味を補う形式で翻訳された。
「ありがとう」が「緑の光」として表示される。
「悲しい」が「波紋」として震える。
言葉の違いではなく、心が繋がった瞬間——その場にいた者たちの目に涙が浮かんだ。
「……こんなに、簡単に分かり合えるなんて」
その日から、都市の端末に「LU-ME」が次々と導入され、混乱が急速に収まっていった。商店街には再び笑顔が戻り、子供たちの遊ぶ声が響き、人々は異種の住人とも自然に話すようになった。
都市の中央広場——
周三は、市長から月の勲章を授与された。空に花火のような光が打ち上がり、人々の拍手が響いた。
「周三さん、あなたのアプリが都市を救ったのです。本当に、ありがとうございました」
彼はエラに微笑み返した。
「ありがとう……俺の夢は、たしか“100万DL”だったけど、もうどうでもよくなった気がするよ」
その瞬間、彼の胸ポケットのスマホが鳴った。自動送信ログが表示されていた。
《DL数:1,000,000達成》
《地域:地球 + 月次元都市 ルーナ=サンクタム》
彼は思わず笑った。
——そして、再び光が彼を包み込んだ。
目を覚ましたのは、自宅の書斎。机の上には、あの絵本。
「夢……だったのか?」
パソコンを見ると、放置していたアプリが突如ランキング入りしていた。DL数は右肩上がりで、世界中から感動のレビューが寄せられていた。
「翻訳というより、心が伝わった」
「娘と話せた。ありがとう」
「これは魔法だ」
彼は、そっと夜空を見上げた。もう、あの模様は見えなかった。
だが、確かに存在した。
月の都市と、その住人たち。
そして彼のアプリが、世界と宇宙をつないだという事実。
「よし……次の夢は、地球と火星をつなぐか」
その目には、かつての少年のような輝きが戻っていた。